実録?百物語

17、深夜の編集部 その3

text by 網屋徹

某雑誌の編集部で同僚だったKOくんから聞いた話。

1人で残業してた。彼は、深夜に残業をするときは、書類や資料が取っ散らかった自分の机ではなく、きちんと整理されたJSくんの机で仕事をすることが多かったが、その日も、入り口にほど近いその机を使っていたそうな。

深夜の仕事ははかどる。電話がかかってくることもないし、話しかけてくる人もいないので、中断されることがないからだ。調子よく仕事をこなしていると、階段の下の方から、誰かがゆっくりと登ってくる足音が聞こえたんだって。

仕事をしながら、聞くとはなしにその足音を聞いていたのだが、どうもその足音が普通ではない。

  ドン... ドン...

というゆっくりとした重い足音の間に、

  シャリィィン... シャリィィン...

という金属音が混じっていたそうな。僧侶が錫杖を突きながら歩いているようなイメージだったらしい。そのイメージが頭に浮かんだ瞬間、仕事どころではなくなった。

  ドン... シャリィィン... ドン... シャリィィン...

足音はゆっくりと、しかし確実に、編集部のある3階の方に近づいてくる。

  ドン... シャリィィン...
  ドン... シャリィィン...

  ドン!

3階までたどり着いた足音は、彼の背後にある入り口の前で止まった。 ドアを開けて入って来られたら逃げ場はない。ドアを凝視したまま、身動きすることもできなくなってしまったそうな。

固まったまましばらく動けずにいると、足音はきびすを返したかのように、再び階段の方へと向かい、やがて階下の方に遠ざかって、やがて消えていったんだと。

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