実録?百物語

59、スターレット

text by 網屋徹

怖い話しが大好きで、走り屋チッ
クだった兄貴から聞いた話。rnrn兄貴は、母親譲りのスターレットを気に入って乗っていた。ずいぶんな旧
型だったが、スターレット最後のFR車で、なかなか楽しめる車だったらしい。rnrnさて。当時兄貴は渋谷
にある飲食店に勤めていたが、走り屋の血は忘れがたく、夜ごとスターレットに乗り込んでは、埼玉の方まで走
りに出かけていたらしい。多摩地区から所沢へ抜ける道に、お気に入りの場所があったんだと。rnrnある晩
のこと、いつものように走っていると、なんとなくいやーな気持ちになってしまった。それがどんな気持ちかと
問われても、なんとなくいやーな気持ちとしか表現できなかったらしい。いつもならその道を二回、三回と往復
するのだが、その日は一回流しただけで家に帰った。rnrnrnそれからほどなくして仕事をやめ、年末に
車で帰省した。rnrn久しぶりに友人を誘ってドライブなどにも出かけたが、スターレットに人を乗せるとど
うも気分が重い。1人で乗っている時にはなんともないのだが、自分以外の誰かを乗せていると疲れるのが異様に
早く、楽しいはずのドライブもちっとも楽しくなかったらしい。まあ、人を乗せるのなんて久しぶりだし、
ちょっと緊張してるんだろ、くらいに思っていたそうな。rnrnそんなこんなで大晦日になった。初詣での約
束をしていたAくんをピックアップしに、Aくんの知り合いの家まで出かけたそうな。兄貴はその知り合いの人と
は面識はなかったそうだが、その人は霊能者として名の通った人だったらしい。折しも、その家では、しめ縄を
飾っているところだった。rnrn 「君、ちょっとハイビームで照らしてくれないか。暗くてよく見えないん
だよ」rnrn兄貴が玄関をハイビームで照らすと、その霊能者が「おやっ」という顔で、一瞬車の方を振り
返ったらしい。兄貴も気にはなったが、霊能者がすぐにまたしめ縄に取りかかったので、たいして気にも留めな
かったそうな。rnrn年が明けて、正月の二日のことだったと思う。夜中にスターレットで事故ってしまっ
た。近所にある木材港のジャリ道で逆ハンドルの練習をしているときに滑り出して、制御不能になったそうだ。
逆ハンドルあてるごとに逆方向に滑り、木材の山に衝突するのをかろうじて避けた結果、1本だけあらぬところに
転がっていた丸太に乗り上げ、足回りを痛めてしまったらしい。幸いなことに、体にはなんの影響なかったそう
だ。rnrn結局、スターレットは廃車にしてしまった。外傷はほとんどなかったが、足回りへのダメージが致
命的だったらしい。rnrn後日、Aくんが先の霊能者に事故の話をしたところ、「やっぱり…」と言わ
れたそうだ。「あの車には女の霊が憑いていた。やはりあの時、気をつけるようにと注意すべきだったか
…」と。rnrnこの話を聞いたとき、兄貴は「きっと、あの“いやーな気持ち”になった
ときに霊を拾ってたんだろうな」と言っていた。それ以来、その場所には行ってないらしい。それにしても、お
気に入りの車はだめになってしまったが、事故の際にケガひとつなかったのは幸いというより他はない。

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