実録?百物語

42、修学旅行にて

text by 網屋徹

元同僚のSYさんから聞いた、彼女
の中学時代だか高校時代だかの修学旅行での出来事。rnrn長崎だったか広島だったか、戦没者の慰霊塔を訪
れた。語り部の話に耳を傾け、当時を偲ぶ写真や遺留品に目を注ぎ、間接的にではあるが、戦争の悲惨さを目の
当たりにする。まあ、そんなふうな見学コースだった。rnrnそこでのスケジュールの最後に、学年の代表
が、戦没者の御霊に対して、二度と戦争を起こさないという趣旨の文章を読み上げるという式が組まれていた。
代表者はSYさんの友人のAくん。快活なノリの好青年である。rnrnAくんは、いざという時の度胸もいい。
朗々とした声で文章を読み上げていく。rnrnが、朗読が山場を迎えようとしたころ、突然、Aくんの声が途
切れだした。どもったような、息がつまったような、それでいてしっかりとした声。おっかなびっくり文章を読
んでいるような、そんな感じだったらしい。rnrnこんな時にふざけるような奴じゃないんだけどね、なんて
SYさんたちは言ってたんだと。結局、Aくんの朗読は、最後までその調子のままで終わってしまった。rnrn
さて、すべてが終わって解散となった。SYさんはAくんに近づいて、あのどもりの原因は何だったのかを尋ね
た。すると、Aくんは、こんな風に応えたんだと。rnrn「いや、途中で天井から血がぼたぼた垂れてきて、
原稿が血で汚れて読めなかったんだよね…」

▲ページトップ